法務省HPに掲載されている試験問題と正答をもとに、各選択肢ごとの簡単な解説を加えてゆきます。他の司法試験記事等もご覧ください。
【第1問】正答3-5 この問題は、論理問題に近いですね。
1.(○)刑罰の目的を再犯防止に置くと、軽微な犯罪を行った者であっても更生のために長期の懲役刑等を科すことが正当化されうる。
2.(○)刑罰の目的を一般予防に置くと、威嚇効果を高めるためには刑罰が重ければ重いほどよいという考えに結びつきやすい。
3.(×)刑罰の目的を贖罪に置くと、軽微な犯罪に対しては、相応の刑罰を科すという考えに繋がり、一般予防とは関係ないといえる。
4.(○)刑罰の目的を贖罪に置くと、犠牲を払わずに済む執行猶予を認める余地がなくなる。
5.(×)刑罰の目的を見せしめによる一般予防に置いたとしても、自由意思の存在を認めない決定論を前提とすることにはならない。
【第2問】正答5
ア.(×)(広高判昭51.9.21)→監禁罪において被害者が行動の自由を拘束されている状態があれば足り、被害者自身が監禁されている認識があることを要しない旨の判示をしてます。
イ.(×)(最決平17.12.6)→離婚係争中で別居している妻のもとで養育されている子を夫が有形力を用いて連れ去る行為は、未成年者略取罪の構成要件に該当し、行為者が親権者の一人であることは、違法阻却の段階で考慮される事情にとどまる旨の判示をしています。
ウ.(×)(最決平21.7.13)→警察署の敷地建物への立ち入りや覗き見等の外部からの干渉を排除する作用を果たしている塀は、「建造物」の一部を構成すると判示している。よって、問題文のように警察署の壁によじ登った行為には、建造物侵入罪が成立しうる。
エ.(○)(刑法222条2項)「親族…に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した」に該当するには、その親族と法律上の親族関係があることを要する。
オ.(○)(最決平20.1.22)→準強制わいせつ致傷罪における暴行は、準強制わいせつ行為に随伴するといえなければならない旨の判示をしています。問題文のように、被害者の支配領域から離れた場所で職務質問と逮捕を免れる目的で警察官に傷害を負わせた場合には、公務執行妨害罪(刑法95条1項)と傷害罪(同204条)の観念的競合(同54条1項前段)となります。
【第3問】正答2 過失に関する学説問題です。
【第4問】正答4
1.(×)(大判昭2.3.26)→文書の名義人自身がその内容を認識した上で署名したときには、それが錯誤に基づくものであっても、文書偽造罪は成立しない旨の判示をしています。ただ、注意しなければならないのは、(大判明44.5.8)→他の文書であると欺罔して名義人を錯誤に陥れた上で署名させたときは、文書偽造罪が成立します。
2.(×)(大判明44.3.31)→偽造手形の行使は、手形本来の効用に従い流通に置くことのみならず、それを真正なものとして使用することも含む旨の判示をしています。
3.(×)(最決平11.12.20)→偽名を用いた履歴書に押印し、自己の顔写真を貼り付けたとしても、文書に表示されている名義人と被告人とは別人格であるとして、私文書偽造罪が成立すると判示しています。
4.(○)支払用カード電磁的記録不正作出罪の保護法益は、支払用カードを構成する電磁的記録の真正に対する社会的信頼にあります。カードの外観が一般人をして真正な支払用カードと誤認する程度でなくてもよいことになります。ここで注意しなければならないのは、有価証券偽造・変造罪との違いです。こちらの場合は、一般人をして真正な有価証券と誤信させる程度の外観を備えていることが必要になります。
5.(×)(最決昭42.3.30)→虚偽の卒業証書を真正なものとして父親に見せる行為であっても、偽造文書行使罪が成立すると判示しています。
【第5問】正答2-2-1-2-2
ウ.(○)(最判昭50.4.3)→現行犯逮捕の際に、現行犯人から抵抗を受けたとき、社会通念上逮捕のために必要かつ相当な限度での実力行使が許され、その実力行使が刑罰法令に触れたとしても、法令による行為(刑法35条)として罰せられない旨の判示をしています。
【第6問】正答2 賄賂に関する条文と判例の知識問題です。
ア.(○)(最決昭33.9.30)→賄賂は、職務行為に関する不正な利益であれば足り、個別の職務行為との間に対価関係があることまでは要しない旨の判示をしています。
イ.(×)事前収賄罪(刑法197条2項)や事後収賄罪(同197条の3第3項)がありますので、賄賂収受時点で公務員でなくても賄賂罪が成立します。
ウ.(×)(最判昭28.10.27)→職務とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務をいう、と判示しています。更に進んで、(最決昭31.7.12)→当該公務員の一般的職務権限に属する行為でなくても、職務と密接な関連のある行為であれば、職務関連性が認められるとしています。
エ.(○)(最判昭37.5.29)→法令上、当該公務員の一般的抽象的な職務権限に属するのもであれば職務関連性が認められると判示しています。
オ.(×)(最決昭58.3.25)→当該公務員が一般的職務権限を異にする他の職務に転じた後に、前の職務に関して賄賂を受け取った場合でも賄賂罪が成立すると判示しています。
【第7問】正答3 交通事故偽装における同意傷害と保険会社に対する詐欺罪の学説問題です。
【第8問】正答4 判例知識問題です。
ア.(×)(最決昭56.2.20)→湖に設けられた生け簀から逃げ出した鯉を逃げ出した鯉であると認識しながら領得する行為は、遺失物横領罪(刑法254条)が成立すると判示しています。
イ.(×)(最決平21.6.29)→パチスロ店において、共犯者のゴト行為を隠蔽するために、隣で通常の遊戯方法によりメダルを取得する行為自体は、窃盗罪に当たらないとの判示をしています。
ウ.(○)(大判明45.4.26)→封入された物は依然として他人の占有に属するとして、郵便局員が封筒を開封して小切手を抜き出す行為は、窃盗罪にあたると判示しています。これは、他人から依頼されて現金入り封筒を運んでいるケースにも当てはまります。他方、辺りに誰もいない路上に落ちていた現金入り封筒を領得する行為は、占有離脱物横領罪になると思います。
エ.(○)被害者の占有の有無は、占有事実と占有意思を社会通念に照らして総合判断することになります。海中に落とした腕時計といえど、落とし主がここに落としたから拾ってほしいと頼まれている以上、他に誰かが領得する状況でないことも相まって、客観的主観的にも占有があると評価しうると思います。
オ.(×)電車内で隣に座っていた人が置き忘れた財布を次の駅に到着した時点で財布を取得して下車したケースは、当該財布には客観的に被害者の占有がないといえますので、占有離脱物横領罪が成立します。
【第9問】正答2-3 刑の減軽加重の問題です。別途記事を書くつもりです。
【第10問】正答2-3 論理問題です。
2.(○)強盗致傷罪における致傷結果が、強盗の手段たる暴行から生ずる必要があるという見解に立つと、事例Ⅰのように、翌日に強盗現場から10km離れた場所で逮捕を免れるために目撃者を暴行したようなケースでは、当該暴行は強取の手段ではないので、強盗致傷罪が成立しない(Xに対する強盗罪と乙に対する傷害罪)。事例Ⅲのように、侵入した家の住人から金品強取できなかった腹いせに、別室で寝ていた赤ちゃんを蹴りつけて傷害を負わせたケースでは、当該傷害は強取の手段ではないので、強盗致傷罪が成立しない(乙に対する強盗未遂罪と丙に対する傷害罪)。
3.(○)強盗致傷罪における致傷結果が、強盗の手段たる暴行から生ずるか、強盗の機会における密接関連行為から生ずる必要があるという見解に立つと、甲丙が乙方に侵入して強盗した直後、甲が共犯者丙に対して不満を解消するために傷害を負わせたケースでは、当該傷害は、強取の手段でもなく、強盗の機会とはいえ強取行為との密接関連性がないので、強盗致傷罪が成立しない(乙に対する強盗罪と丙に対する傷害罪)。
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