文書提出命令における文書提出義務の要件(民事訴訟法220条)
【文提(ブンテイ)】
民事訴訟の当事者が証拠書類を集めたいときに使う手段の1つに、文書提出命令の申立てがあります。このページでは、文書提出義務について規定する民事訴訟法(以下略)220条について解説したいと思います。
【220条】→「次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。」
1号・2号・3号のいずれかに該当する→文書提出義務あり
4号に該当しない→文書提出義務あり
このように220条は、原則として提出義務があるという規定ぶりになっています。逆に言えば、1・2・3号のいずれにも該当せず、かつ、4号に該当する例外的な場合にのみ提出義務がないということになります。それでは、1号から順に見ていくことにしたいと思います。
【1号】→「当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。」
そのままの意味です。自ら所持する文書を自ら引用したのだから、相手方にも見せるのが公平ということです。
【2号】→「挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。」
これもそのままの意味です。その書面の引渡しや閲覧を求めることができるのですから、提出してもらおうということです。
【3号】→「文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。」
前段部分は「利益文書」と呼ばれ、遺言書などが典型例です。挙証者が受遺者の一人であれば足り、専ら挙証者の利益のためだけに作成されたことまでは要しないと解釈されています。後段部分は「法律関係文書」と呼ばれ、契約書などが典型例です。ちなみに、供述拒否権の認められる内容が記載されている場合や(最決平16.2.20)、内部文書である場合(最決平12.3.10)には、3号後段に該当しないという判例があります。供述拒否権を実質的に保護することは必要ですし、企業秘密等が記載されているような文書を提出させるようなことは認めない解釈をとったものと考えます。
【4号イ】→「文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書」←196条は、証言拒絶権について規定している条文です。
証言拒絶権が認められるケースでは、証言を拒むことができるのと同時に、その内容が記載されている文書の提出も拒めるということです。そうでなければ、証言拒絶権が実質的に保障されないことになってしまいますからね。
【4号ロ】→「公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの」←223条3項ないし5項も参照のこと。
公務員の所掌事務に属する秘密によって公益が害されるなら、その文書は書証とすることができないとするのが相当です。当事者の紛争解決と公益の保護を天秤にかけてイメージしてみましょう。また、公務遂行に著しい支障をおよぼすおよれが具体的に認められる場合も同様です。
【4号ハ】→「第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事実で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」←197条1項2号、3号も参照のこと。
医師等の高度のプライバシー情報を知ることになる者が職務上知った秘密は、それが文書に書かれていた場合も黙秘義務がある限り、秘密を守る必要があります。カルテもこれに当たりますが、患者が原告となっている場合には、黙秘義務が免除されたと扱われる旨が高橋宏志著の重点講義に記載されています。また、職業秘密等も同様に外部に漏れたことによる具体的な不利益が認められる場合には、秘密を保護する必要があります。
【4号ニ】→「専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)」←行政機関の保有する情報公開に関する法律も参照のこと。
いわゆる自己利用文書と呼ばれるものです。重要判例(最決平11年11月12日)に示された要件の暗記は欠かせません。①専ら内部利用に供する目的で作成され、外部に開示することが予定されていないこと。②開示によって個人のプライバシーが侵害されるなどして、所持者に看過しがたい不利益が生ずるおそれがあること。③特段の事情のないこと。という3つの要件を充たせば、自己利用文書に当たり、文書提出義務がないことになります。なお、条文のかっこ書き部分は、いわゆる情報公開法によって手当てがされていることから、民事訴訟法からは除外されています。
【4号ホ】→「刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書」
いわゆる刑事事件関係書類と呼ばれるものです。(最決平16年5月25日)によれば、法律関係書類に該当する場合で、保管者による提出の拒絶が、民事訴訟における取調べの必要性、開示による弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、裁量権の範囲を逸脱し又は濫用するものであるときは、文書の提出を命ずることができる。と判示しています。つまり、保管者の裁量権の逸脱濫用があると認められれば、4号ホに該当しないこととなって、提出義務が生じるということになります。
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