平成30年司法試験-論文式試験民事系第1問(民法)の分析と解説-設問1編
今年の各設問の配点割合は、40:35:25です。5枚で書く場合は、2枚:1.8枚:1.2枚の配分になります。
設問1ー本件売買契約の代金支払請求が認められるかが問われている。
(1)「問題文2段落」→売主Bと買主Aは、平成29年9月10日(以後年は省略)、目的物を松茸5kgとし、代金を50万円とする合意をしています(民法555条)。本件売買契約では、目的物の引渡しと代金支払いを9月21日の夜に行うと定めています。
(2)本件売買契約の目的物は、松茸5kgというように種類と数量で定められていますので、「債権の目的物を種類のみで指定した場合」(民法401条1項)に当たり、種類物債権ということになります。
(3)「問題文3段落」→売主Bは、9月21日の12時前後に松茸5kgの収穫をし、16時頃には乙倉庫でそれを箱詰めし終えて、ただちに買主Aに引渡準備が整ったと電話連絡しています。←目的物の特定について規定した民法401条2項「債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し」に該当するかについて検討します。設問1では、売主B側の乙倉庫で引渡しを行うことになっており、「弁済をすべき場所について別段の意思表示が」ありますので(民法484条)、取立債務の形をとっています。取立債務の場合に特定が生じるには、かの有名なタール判決によって、①目的物の分離と➁通知が必要であると解釈されています。事実を当てはめていけば、特定が生じるということになります。←履行不能が生じうることを意味します。
(4)「問題文3・4段落」→9月21日20時頃に乙倉庫で松茸5kgを引き渡すことになっていましたが、買主Aは、トラックがなくなってしまったので今日は引き取りに行けないと売主Bに電話連絡しています。←このことが受領遅滞「債権者が債務の履行を…受けることができないとき」(民法413条)に該当するか検討します。受領遅滞の要件は、①債務者の履行の提供と➁債権者の受領拒絶です。ちなみに、受領遅滞は、法定責任と解釈するのが通説です。取立債務の場合に①の要件を充たすには、「債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知して受領の催告をすれば足り」ます(民法493条但書)。➁の要件は、上記の事情から充たすでしょう。「問題文6段落」→9月22日7時頃に、買主Aは、売主Bに対して、10時頃に乙倉庫に取りに行きたいと電話連絡し、売主Bは買主Aのトラックに乗せていってもらうことになっています。←このことは、債務の履行期の変更合意とも評価し得ますが、そのような考えには立たずに構成したいと思います。
(5)本来であれば、売買契約の目的物の特定が生じると、善管注意義務(民法400条)が発生するはずですが、受領遅滞の効果として、自己の財産と同一の注意義務に軽減されると解釈します。売主Bの従業員Cは、いわゆる履行補助者ですので、Cの注意義務違反はBの注意義務違反と同視して考えます。「問題文5段落」→売主Bは、乙倉庫に待機させていた従業員Cに、盗難に警戒すべく乙倉庫に二重錠を掛けるように指示しています。従業員Cは、指示どおりに施錠してから帰宅しています。←注意義務違反なしと評価できます。「問題文7・8段落」→9月22日7時頃に、農作業を始めた従業員Cが農機具を乙倉庫から取り出し、普段どおりの施錠をして立ち去った後、泥棒が錠を破壊して乙倉庫に侵入し、そこにあった松茸を含めた農作物をすべて盗んでいってしまいました。←従業員Cは、普段どおりの施錠をしていますので、注意義務違反なしと評価しました。
(6)売主Bが用意していた松茸は、すべて盗まれてしまいましたが、上記のように売主側に注意義務違反がないので、目的物が双方の責めに帰さない事由によって目的物が滅失したことになります。危険負担の検討に移ります。設問1では、目的物の特定が生じ、かつ、債務者の責めに帰することができない事由によって目的物が滅失していますから、債権者主義(民法534条2項、1項)になります。そうすると、買主Aは、なお反対給付をすべき義務を免れないことになります。つまり、売主Bの代金支払請求権が残存することを意味します。
(7)問題文の順番の都合で最後に書きますが、「問題文9段落」→買主Aは、売主Bが松茸5kgを引き渡すまで代金を支払わないという同時履行の抗弁(民法533条)を主張しています。同時履行の抗弁に対する再抗弁として、履行の提供がありますが、この提供は継続していなければならないというのが、判例の立場です。上記の事実からは、履行の提供の継続がないので、当該再抗弁は認められないことになります。
【結論】売主Bの買主Aに対する売買代金50万円の支払請求は、認められる。ということになると思います。
以上です。他の記事もご覧ください。ゴンテ