平成30年司法試験-短答式民法の分析と解説-第1問~第10問編
6月7日(木)16:00に法務省HPに正解が掲載されましたので、それに加えて各選択肢の分析と簡単な解説をしようかと。
【第1問】正答2
ア.(○)死因贈与は生前の贈与契約です(民法554条)。胎児が生まれた後なら贈与できます。
イ.(×)胎児は相続については権利能力を有します(民法886条1項)。遺贈を受けることができます。
ウ.(×)父は母の承諾を得れば胎児の認知ができる(民法783条1項)。胎児の本当の父親を知っているのは母ということでしょうか……。。
エ.(○)胎児の母は出生を待ってから認知の訴えを提起することになります(民法787条本文)。基本的に胎児はまだ独立した自然人ではないのです。
オ.(×)父母が胎児を代理して加害者とした和解は胎児を拘束しない(判例・阪神電鉄事件)。有名すぎる判例ですね。
【第2問】正答5
ア.(×)法人は成年後見人になることができます(民法843条4項かっこ書き)。法人後見制度というのもあります。
イ.(×)例えば、いくつかの会社が組合を作っていることがあることは、社会経験上知っている方も多かったのでは。
ウ.(×)法人は財産的損害だけでなく、名誉毀損について損害賠償請求できます(民法723条、判例)。自然人と異なり、精神的苦痛については認められないというのが通説です。
エ.(○)法人も遺言執行者になることができます(民法1009条)。信託会社などが遺言執行者になることも。
オ.(○)法人も特別縁故者になることができます(民法958条の3第1項、裁判例)←学校法人が特別縁故者になった裁判例があります。
【第3問】正答2
ア.(○)土地の仮装譲受人が建築した建物の賃借人は「第三者」に当たらない(民法94条2項、判例)。典型的な短答知識です。
イ.(×)強迫は表意者が畏怖したことで完全に意思の自由を失ったことを意味しない(民法96条1項、判例)。
ウ.(○)所有者を欺罔して農地を買い受けて仮登記を得た者から更に権利を譲り受けて付記登記を経由した者は「第三者」に当たる(民法96条3項、判例)。
エ.(×)協議離婚に伴う財産分与において、自己に譲渡所得税が課税されないことを当然の前提として黙示的に表示していた場合には、錯誤無効の主張ができる(判例)。錯誤無効は表意者保護の規定です。譲渡所得税は、譲渡した側は金銭的利益を得ているだろうとか、譲渡したことで管理しなくて済むという利益を得ているだろう、という考え方だそうです……。。所得税や住民税とは別に課税されます……。。
オ.(×)「到達」とは相手方によって直接受領され又は了知されることを要するものではない(民法97条1項、判例)。この選択肢のように「認められることはない」という表現はだいたい(×)ですね。
【第4問】正答3
ア.(○)(民法101条2項)→条文知識です。取引の基準は本人ではなく相手方と直接やりとりする代理人です。よく考えたら当たり前かも。
イ.(×)権限の定めのない代理人は保存行為だけでなく改良行為をする権限がある(民法103条1号、2号)。
ウ.(○)(民法94条1項、2項、99条1項、101条1項)
エ.(×)「代理人が…後見開始の審判を受けた」場合には代理権が消滅します(民法111条1項2号)。保佐開始の審判にとどまる場合には、代理権は消滅しません。引っかけ問題です。
オ.(○)「代理人は、行為能力者であることを要しない。」(民法102条)←誰に任せるかは自己責任ということですね。
【第5問】正答3
ア.(○)本人が無権代理行為を追認拒絶した時点で本人への効果不帰属が確定します(民法113条2項)。
イ.(×)実質的生活関係が存在する内縁の夫婦の一方が無断で婚姻届を作成して提出した場合であっても、他方がそれを追認したときは届出時に効果が遡及する(民法116条、判例)。特に不都合がないですしね。
ウ.(×)(民法115条)→条文知識です。
エ.(○)利益相反は未成年を保護する趣旨です。成人になれば自己に有益か不利益かを判断できますので、利益相反行為を追認できます。
オ.(○)(民法797条1項、判例)→基本的な考え方は、「エ」と同じです。
【第6問】正答2
ア.(○)判決により確定した不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は10年です(判例、新民法169条1項)。
イ.(×)(判例)
ウ.(○)(判例)いわゆる一部請求の場合、「債権の一部が消滅している旨の抗弁に理由があると判断されたため,判決において上記債権の総額の認定がされたとしても,当該訴えの提起は,残部について,裁判上の請求に準ずるものとして消滅時効の中断の効力を生ずるものではない。 」という判例があります。
エ.(×)(最判平10.11.24)
オ.(×)(民法153条、300条)(最大判昭38.10.30)→裁判上の請求ではなく、催告として時効中断の効力が生ずる。
【第7問】正答1 AからBに甲土地売却(第1売買)、AからCに甲土地売却と登記移転(第2売買)、BがCに対して登記移転手続請求
ア.(○)Bは、甲土地所有者Aから買い受けたことと、cに登記があることを主張立証しなければならない。
イ.(×)Cの対抗要件の抗弁においては、第2売買の成立と、Bが登記を具備するまでBを所有者と認めないと主張立証します。
ウ.(○)物権的請求権は時効による消滅がありません。所有権は絶対的なものですから。
エ.(×)Cが第1売買について単なる悪意に留まるだけでは足りず、背信的悪意者である必要があります。
オ.(×)錯誤無効の趣旨は表意者保護にありますから、主張権者は、原則として表意者のみです(最判昭40.9.10)。例外的に表意者が錯誤無効を認めているときの債権者代位のケースがあります(最判昭45.3.26)。
【第8問】正答3
ア.(×)占有保持の訴えでは、占有妨害の停止だけでなく、損害賠償も請求できます(民法198条)。
イ.(○)A所有の甲建物に同居するAの未成年の子Bは、甲建物そのものの占有権は有しない。
ウ.(×)所有の意思をもって占有するのが自主占有です。盗んできた物に対してだって自主占有が認められるのです。契約上賃借している物や契約上預かっている物などに対する占有が他主占有になります。
エ.(○)権利能力なき社団の占有する不動産につき、法人格を取得した後も引き続き占有する場合には、併せて占有を主張できる(民法187条1項、最判平元12.22)。
オ.(×)占有の訴えに対して、本権に基づく反訴を提起することは禁じられていません(民法202条2項、最判昭40.3.4)。訴権は守られています。
【第9問】正答1 個人的な覚え方→小作人だけは土地を使って作物つくって金儲けできるんだから金払うのは必須。
ア.(×)地代の支払いがない無償の地上権も設定できます(民法266条1項)。
イ.(○)地上権は、存続期間を定めないで設定できます(民法268条1項)。
ウ.(○)永小作権は、「小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利」です(民法270条)。
エ.(×)無償の地役権を設定することができます(民法280条)。
オ.(○)地役権について存続期間に関する規定はなく、登記事項でもあません(民法280条以下、不動産登記法80条1項)。
【第10問】正答2
ア.(○)未成年者がした売却行為については、取消し前の善意無過失の第三者に対しても対抗できます(民法5条2項)。基本的に判断能力が不十分な未成年者保護の要請が強いのです。
イ.(×)AからBへ売却&登記移転→BからCへ売却&登記移転。Cは、確定的に所有権を取得していますので、後々になってAが契約解除したとしてもCが勝ちます。
ウ.(×)(最判昭43.11.15)AB間の売買における和解の立会人Cが和解書面に署名捺印しているにもかかわらず、CがAに対する債権に基づいて当該売買の目的物差し押さえた場合に、Cは背信的悪意者に当たるとされています。
エ.(×)背信的悪意者からの善意の転得者が所有権移転登記を得た場合は、当該目的物の所有権を確定的に取得します。
オ.(○)A所有の土地をBが占有して取得時効が完成した後、CがAから抵当権設定を受けていたとしても、再度の取得時効の完成によってBが取得時効の援用をすれば、抵当権が消滅したまっさらな所有権を原始取得できます。