平成30年司法試験-国際私法第2問の分析-
【設問1小問1】
日本人Xが甲国の画商Yから買い受けた絵画の代金返還請求について日本の裁判所が国際裁判管轄権を有するか?が問われている。
(1)手続は法廷地法による原則から民事訴訟法によって判断することに触れましょう。国際裁判管轄については、民訴法3条の2以下に規定があります。
(2)一応、普通管轄の3条の2第1項に当たらないことだけ一言触れてから、特別管轄の3条の4第1項の検討に入ります。
(3)条文に従って、Xが「消費者」に当たること、Yが「事業者」に当たること、今回の売買契約が「消費者契約」に当たることは、必ず論じなければなりません。本問は、「消費者から事業者に対する訴え」であり、Xが日本在住であることは問題文冒頭に明記されていますので「訴えの提起の時又は消費者契約の締結の時における消費者の住所が日本国内にあるとき」にも当てはまります。
(4)最後に忘れずに検討しなければならないのは、3条の9(特別の事情による訴えの却下)についてです。本件絵画はXが日本に持ち帰っていますので「証拠の所在地」は日本です。本件売買契約に際して「これを日本の自宅に飾りたい。」というやりとりがあったことから、Yとしては本件絵画が日本に渡ることを認識しています。この事情があれば「当事者間の衡平を害」することにはならないでしょう。
(5)結論としては、日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められるとするのが穏当です。
【設問1小問2】
本件売買契約の有効性に関する準拠法はいずれの国の法か?が問われている。
(1)最初に、通則法11条(消費者契約の特則)について論じなければなりません。1項の前半部分に当てはめて、Xが「消費者」、Yが「事業者」、本件売買契約が「消費者契約」に当たることに言及した後、6項1号と2号の能動的消費者に関する適用除外になるという流れになると思います。「常居所」とは、リーガルクエスト国際私法によれば、人が居所よりは長期の相当期間にわたり常時居住する場所をいうとされていますが、私は、「客観的に一定期間の居住実態がある地」といつも書いています。また、各号但書の趣旨は、事業者側の予測可能性にありますので、ここでの「勧誘」というのは、個別的な勧誘行為のみを指すと解釈されています。本問の事情をひとつひとつ当てはめていけば、11条6項1号・2号の適用除外となるでしょう。
(2)次に、7条に戻ります。趣旨は、当事者自治です。「当事者が…選択した地の法」は、明示的合意だけでなく黙示的合意も含まれるとするのが裁判例・通説です。本問では、明示的合意がないのは明らかですが、黙示的合意の有無についてはスルーしてはいけません。わざわざ問題文に「英語で記載された契約書」「特定の国の法の条文への言及もなく」「特定の国の法に特有な法律用語も使われていない」と書かれているからです。もっとも、当事者の合理的意思を探ってみても黙示的な合意もないということになるでしょう。
(3)次のステップは、8条1項・2項です。売買契約においては、目的物の引渡しが「特徴的な給付」に当たるとされますので、2項かっこ書きの「事業所の所在地の法」として甲国法が1項の「最も密接な関係がある地の法」に推定されます。そして、推定を覆す事情がないことだけ一言触れましょう。
(4)結論として、準拠法は甲国法になるということになると思います。
【設問2】
甲国民法では所有権の移転については引渡しが必要であるという態度をとっていることを前提として、本件絵画が日本に向けて船便配送中という場合に、Yが本件絵画の所有権確認の訴えを日本の裁判所に提起したが認められるか?が問われている。
(1)所有権の得喪の問題(通則法13条2項)に法性決定されます。
(2)国際私法の解釈として、「原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法」をどのように解釈するのかを示す必要があります。「原因となる事実が完成した当時」とは、リーガルクエスト国際私法によれば、その時々の目的物所在地法上で物権変動が生じているか否かが継続的に判断されて物権変動が生じた時点を指します。配送中の物の「目的物の所在地法」とは、裁判例・多数説の立場からは、物の到着予定地を指すと考えられています。なぜなら、物の将来の所在地として物との間に密接関連性があるからです。反対説の立場からは、物の現実の所在地あるいは物の発送地と考えることも出来ますが、司法試験は実務家登用試験であって、学者選抜試験ではありませんので、裁判所がとっている立場で書くのがよいでしょう。
(3)結論としては、日本法が準拠法となりまして、民法を適用して検討すれば、所有権はXに移転しているということになるでしょう。