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刑法の「錯誤」を分かりやすく解説!-司法試験も怖くない-

2018/08/15
 
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司法試験で避けて通れない「錯誤」について分かりやすく解説していきます。試験問題の文中に書かれている「客観的事実」(特に行為と結果)は、確定した動かない事実なので必ずマークしてください。その事実と何らかの「主観的事実」(特に行為者の思惑)との間にズレが生じている部分を「錯誤」と呼んでいるのです。司法試験に出てくる錯誤論は以下の5パターンに整理することができます(法律の錯誤はここでは省略)。



【具体的事実の錯誤】←客観面と主観面のズレが同一の構成要件内(1つの条文)に収まっている場合。

人違いだったけどどちらにせよ成立する犯罪は同じパターン→客体の錯誤:行為者の狙いどおりの客体に侵害結果を発生させたものの、予定していた客体でなかった場合。

(例)犯人Xが、Aさんを刺殺しようとして、Aさんだと思って実行に移したが、実は死亡させたその人はBさんだった。何と何にズレがあるか?客観的事実:Xの刺突行為によってBさんが死亡した⇔主観的事実:XはAさんを刺殺するつもりだった。つまり、発生した結果とXの予定していた認識との間にズレが生じているということです。

(論述順序)①Bさんへの刺突行為は、人の生命という法益侵害を生じさる現実的危険性のある行為だから殺人罪の実行行為に当たる→②Bが死亡するという結果が生じている→③実行行為と結果との間には当然に因果関係が認められる→④認識事実と実現事実とが構成要件的評価として一致する限度で、実現事実に対する故意責任を認めるべきとして、Bに対する殺人の故意を認める→⑤Bに対する殺人既遂罪が成立する。という順番で論述していくことになります。

ざっくり言うと、犯人Xは、人を刺殺するつもりで、人を刺殺したのだから、殺意を認めていいじゃないかということになります。

・手がすべって別の人を攻撃してしまったけどどちらにせよ成立する犯罪は同じパターン→方法の錯誤:行為者が狙っていた客体とは別の客体に侵害結果を発生させてしまった場合。

(例)犯人Xが、Aさんを銃殺しようとして、Aさん目掛けて発砲したが、認識していなかった傍らのBさんに命中して死亡させてしまった。何と何にズレがあるか?客観的事実:Xの発砲行為によってBさんが死亡した⇔主観的事実:XはAさんを銃殺するつもりだった。つまり、発生した結果とXの予定していた事実との間にズレがあります。

(論述順序)①Aさんへの発砲行為は、人の生命という法益侵害を生じさせる現実的危険性のある行為だから殺人罪の実行行為に当たる→②Aは死亡していないので、Aに対する殺人未遂罪が成立する。③Bが死亡するという結果が生じている→④発砲行為には銃口の先にいる人の生命侵害をする危険を有していて、Bの死亡という結果への寄与度が高く、介在事情がみられないので、実行行為とBの死亡の間に因果関係が認められる→⑤人を殺してはならないという規範に直面しているのに実行行為に及んでいるところに故意責任の本質があるから、認識事実と実現事実とが「人」に対する生命侵害であれば、構成要件的評価として一致するとし、実現事実に対する故意責任を認めるべきとして、Bに対する殺人の故意責任を認める→⑥Bに対する殺人既遂罪が成立する。→⑦両罪は、1個の行為が2個以上の罪名に触れるので、観念的競合となる。


・人を攻撃したのち予定と違う経過で法益侵害が生じたが構成要件内のパターン→因果関係の錯誤:行為と結果を結ぶ因果の経過が予定と違った場合

(例)犯人Xが、Aさんを溺死させようとして橋の上から突き落としたが、落下中に橋桁に頭部を強打して死亡させた。何と何にズレがあるか?客観的事実:XがAを突き落として頭部強打で死亡させた⇔主観的事実:川におぼれさせて死亡させるつもりだった。

(論述ポイント)因果の経過が相当であることと、故意があることを必ず指摘してください。判例通説の立場は、行為者の予定していた因果経過と現実の因果経過が食い違っていたとしても、法的因果関係の範囲内であれば、故意が阻却されないというものです。この立場からは、因果関係の錯誤で故意が阻却されないという結論が導かれます。→(※砂末吸引事件については別途記事を書きます。)



【抽象的事実の錯誤】←客観面と主観面のズレが別々の構成要件に跨がっている場合。「客体の錯誤」と「方法の錯誤」が問題になる。
法定的符合説(判例・通説)

‘行為者が認識していた犯罪事実と現実に発生した犯罪事実とを比較し、両者が構成要件の範囲内で符合する限度において故意犯の成立を認める’という立場(基本刑法Ⅰより引用)

抽象的事実の錯誤の処理

(原則)→認識事実には故意の未遂犯を、発生事実には過失犯を検討することになる。

(例外)→認識事実と発生事実とに構成要件の重なり合いがあれば、その限度で故意犯の成立を認める。

構成要件の重なり合いの判断基準(判例・通説)

実質説→構成要件の重なり合いを実質的に判断する立場。行為態様の共通性と法益侵害の共通性から判断することになる。

軽い犯罪の故意のみで重い犯罪結果を生じさせた場合

(例)ベンチに置き去りにされた忘れ物だと思って、そこに置かれていたバッグを盗んだところ、バッグの持ち主の占有が及んでいた。←「抽象的事実の錯誤」における「客体の錯誤」のケース

(論述順の概略)「窃取」が占有者の意に反する占有の移転であり、客観的には窃盗罪の構成要件に該当する→犯人には占有離脱物横領の認識しかないから抽象的事実の錯誤がある→認識事実(ここでは占有離脱物横領)と発生事実(ここでは窃盗)との間に構成要件の重なり合いがあれば、その重なり合いの限度で故意を認める→行為態様の共通性と法益侵害の共通性から構成要件の重なり合いを判断する→他人の物を不法に領得する点で行為態様の共通性があり、窃盗罪の保護法益は第一義的には占有だが究極的には所有権にあると考えられるので、法益侵害の共通性もある→占有離脱物横領罪の範囲で構成要件の重なり合いが認められる→占有離脱物横領罪が成立する(38条2項の記述も忘れてはいけない!)

重い犯罪の故意で軽い犯罪結果を生じさせた場合

(例)ベンチに置かれていたバッグは傍らに立っていた人の物だと思って、隙をついてそのバッグを盗ったものの、実はバッグの持ち主はすでにどこかへ行ってしまっていた。

(論述順の概略)客観的な事実として、持ち主の占有が及んでいないバッグの占有を犯人が自己へ移転させたという事実を記述する→犯人は窃盗の故意を有していた。上記同様の検討を展開して、窃盗の故意には占有離脱物横領の故意が包含されていると指摘→占有離脱物横領罪が成立する。

犯罪の軽重が同じだが抽象的事実の錯誤がある場合

判例百選等にも記載されていますが、覚せい剤輸入の故意で麻薬を輸入していたケースが有名です。この場合も、白い粉を輸入するという点で行為態様に共通性があり、違法薬物からの身体の安全が保護法益だから侵害法益の共通性もあることを指摘し、構成要件の重なり合いがあることを示すことを怠ってはいけません。結論として、麻薬輸入罪が成立するという展開になります。

刑法38条2項を理解する

「重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない」

上述の例で言えば、実際には窃盗罪に当たる行為をしたのに、窃取時には忘れ物を盗ったとしか認識していなかった場合がこれに当たります。同項の果たす役割は、客観的に窃盗罪の事実が認められるところに、占有離脱物横領罪の事実があったと擬制することにあります。そうすれば、占有離脱物横領罪の事実あり(客観面)ー占有離脱物横領罪の故意あり(主観面)となり、同罪の成立が認められる結論が導かれるという流れになります。

以上です。他の記事もご覧ください。ゴンテ

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